渋谷の改札に0時

仕事帰り。マークシティの帰り道は閉まっていたので、マークシティの横の坂道をくだる。

ハチ公口の改札に向かう。すると、その改札前に、カップルがいる。

時間は0時を超えている。おそらく2人にとってはもうすぐ終電。

美しい顔の作りをした彼女は壁に背を預け、うつむいている。目には涙。

そして、その横で男性が、彼女の方を向きながら、左手で彼女の頭を撫でる

想像するに、これからこの2人はしばらくの分かれとなる。彼が帰るのか、彼女が帰るのか、あるいは2人が分かれるのかわらかいけれど、2人は分かれることになる。
※一般社会通念から分析するに、彼女が帰るのだと思われる。もし彼が帰る場合、彼女は駅まで送りにこさせないのではないか。わからないけれど。

彼女は、わがままを言うまでもなく(ないし、それまでに十分に言い尽くして)、ただ目で語るのみ。

彼もそれにタイして言うべき言葉を持たず(ないし、散々言い尽くして)、ただ髪の毛を左手で撫でるのみ。ハグするタイミングではなく、ないし、ハグはしないのかもしれない。ここは渋谷のハチ公改札だ。

もう少し見ておきたいと後ろ髪を引かれながら、駅の改札を潜った。

時間にして、僕が見ていたのは3秒か4秒くらいだろう。しかし、その3秒が、僕の胸をつかんだ。

物語をそこに浮かび上がらせ、あまつさえ「もっと見てみたい」とさえ思った。この2人はどのようにしてその場を離れるのかを見たい、と思うような風情のある2人だった。

そして、電車をのって思う。いやー、やっぱり「本気は心を揺するのだ」という自明のものを改めて痛感した。

何かのセリフか歌詞いわく「僕は本気がみたいんです」という奴で。

いやー、生きるって良いな、と思った3秒だった。

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