仕事帰りに六本木を通る。
六本木は、ファンキーな人が多い町である。よって、ファンキーな光景を多々見かけることもある。
たとえば。
たとえば、先日見かけたのは、ある休日の24時くらいの出来事。あるイタリアンの店が閉まっていた。そして、シャッターが閉まっていた。
しかしシャッターには除き穴がついていた。それを覗く人がいる。
カップルだった。男の人が、そのシャッターの中(=イタリアンの店内)をのぞき込み、そして、彼女(らしき人)が、「やめなよ、早くいくよ」と腕を引っ張っていた。
何度か彼女が彼の腕を引っ張る。彼は見続けている。そして、諦めて彼はシャッターの穴から目を離し、道に出ようとする。
すかさず彼女がシャッターの穴をのぞき込む。彼も慌てて、それに追いつき、一緒に穴をのぞき込む。
あの穴の中に何があったのかは知らない。情事なのかもしれないし、新しいピザのお披露目会なのかもしれないし、もしかすると何もなかったのかも知れない。
おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ
とのたまったニーチェ先生の言葉の如く、彼らは僕に覗かれていて、でも、覗いている僕は、その彼らが覗いている先のものは解らなくて。
今でも、たまにそのイタリアンの店の前を通ると、シャッターの穴が気になるけれど、マルコビッチになるのが怖いので覗かない。
またある金曜日の夜の話。
またも仕事帰りの25時か26時の頃。ぐでんぐでんに酔っぱらったカップル。西麻布方面だと、実際に寝ている人もいるけれど、そのカップルはまだそこまでは酔っぱらっていない。
男は40から50歳、女性は25から30歳前後。場所と服装を鑑みるに、夜の仕事中の女性とお客の仕事帰りの男性なのだろう。
彼女の手を引っ張り、六本木の地図の看板に彼女を押しつけ、戯言をしゃべる男。まさに「タワゴト」という表現がこれほどしっくりくる場所もない。
そこで彼はいう。「俺の名前は何だ。言ってみろ」と。そして口づけをしている。
なんとも、風情のある言葉である。
千と千尋のラストシーンを髣髴させるような、そして、そこからアニメ繋がりで「美女と野獣」まで思い出し「おお、彼の名前をきちんと言えれば、彼は美男子に戻るのか」という想像までたどり着くこと請け合いである。
あるいはRihanaのWhat’s My NameをBGMにしながら、
hey boy I really wanna see if you can go downtown with a girl like me
といったフレーズがダブって見える夜で。そんなこんな。
恐らく昔の六本木の華やかさとは違うのだろうけど、それでも、なんだか色っぽい町だなぁ、と思う昨今でした。