このブログに何度となく出来ている筒井康隆大先生。
私の最敬愛するお方のうちの1人。
SF作家という肩書きだが、
役者もすれば、舞台も手がける。
漫画も描けば、クラリネットも吹く。
デザイン事務所を開いていた過去もあり。
氏との出会いを少し。
初めて出会ったのは、「時をかける少女」という小説だった。
小学生のころ、ちょうど、ドラマ化されていたのだ(多分、何回目かのドラマ)。
そして、中学生のころより本気でのめり込み、全集は言うまでもなく、
20年前だか30年前前後の「筒井康隆」特集をしていた雑誌までも買いあさった(実家に貯蔵)。
大学の頃は、念願かなって、氏にメール取材をさせて頂く機会も得て、それはそれはうれしかったとさ。
ということで。
・2005年、原田の脳髄を刺激した小説12冊
・原田の股間を刺激した漫画12冊
・涙腺を亀甲縛りにする青春映画12本
・90年代後半の青春を彩った音楽12曲
・最強の現代青春小説 12冊
・エンドルフィンを放出させる海外の美術館・博物館 12 上
・エンドルフィンを放出させる海外の美術館・博物館 12 下
・青春の時間を奪い去ったRPGゲーム 12本
に続きまして「筒井康隆 12冊」。
毎度のごとく、めっきり主観。
さらに、今回は短編など入れるときりがないので、長編縛り。
■12位 夢の木坂分岐点
夢の中を小説化した小説、とでも言えばいいのだろうか。
しかし、こう形容してしまえば、あまりにも陳腐。
夢の中の主人公が、そこで寝て
さらに夢を見る。
つまり、夢の階層化が始まる。
では、そこで主人公は、別の主人公になってしまう。
つまり、外側では異なる主人公を
内面では同じように描く夢の世界。
そして、その夢の不思議感を表現するための
描写。
とても不思議な小説。
■11位 敵
断筆後の小説の1つ。
筆者の心境を反映したのが、定年されたエルダーパーソンが主人公。
突然、PCのネットに表われる「敵」が来たという話。
彼の周りに訪れようとする「敵」。
初期を彷彿されるカオスとドタバタが懐かしい。
ここだけ聞くと、
「阿修羅ガール」が出てくるね。そういえば。
■10位 霊長類南へ
某国のミサイル誤発射による地球滅亡までのシーンを描いた作品。
日本沈没なみの想像力。
もちろん氏の十八番「ドタバタ」は駆使されているのだが、
しかし、この人類滅亡をイメージするという想像力が一番見所。
「エヴァンゲリオン」のラストよりも、よっぽどリアルでシュールだと思いましたが。
未来関係では、短編の幻想の未来も捨てがたい。
ともあれ、この小説読み終えると、どっと疲れた記憶がある。
■9位 大いなる助走
文学賞の受賞までの裏側を描ききった問題作。
自身が直木賞候補になりながら、諸事情ゴタゴタで落とされた怒りを文学にまで昇華させた。
氏は、このように「アンタッチャブル」な世界を描く気骨あるジャーナリスト的
精神もあり、見ている方がはらはらすることがある。
これを読むと、文学賞が違うように見えるから不思議。
■8位 脱走と追跡のサンバ
昨今、「ウェブ進化論」で、「あちら側」と「こちら側」の話が盛んだが、
この小説も「あちら」へ逃げようとする主人公が走り回る小説。
ドタバタ喜劇のように思えるのだが、
本質はもっと深い。
メタ構造やシュルレアリスム的構成など、SF作家としての挑戦が詰まった作品。
一気に読んでしまう。
■7位 エディプスの恋人
七瀬三部作の最終話。
七瀬は、エスパーで、相手の思考を読んでしまう少女。
これを聞くと、宮部みゆきの「龍は眠る」を思い出すが、
そこは、まったく違う世界。氏のウィットやアイロニーが存分に配置されている。
第一部の「家族八景」は、オーソドックス」
第二部、そして第三部で世界がわけのわからん明後日の方向につっぱしり
「神様的存在」が出てくる。
これを中学生だか高校生だかで読んだ僕は
自我が出来ていないまま、脳髄をえぐられたようで、
良い意味でのトラウマになってしまった。
■6位 パプリカ
夢探偵的少女が主人公。
これも宮部の「ドリームバスター」を思い出すが、まったく毛色は違う。
この小説のために、氏は夢の中まで降りすぎて、
あまりにも怖い夢に触れてしまい
ある朝、起きると、髪の毛が真っ白になっていたという経緯がある。
しかも、胃に穴まで開いた。
夢の持つ力を命を賭けてまで描いた鬼のような作品。
フロイトに傾倒されていた過去が垣間見える。
ちなみに、僕が「筒井本を、どれ読んだらいい?」と聞かれると
とりあえずこれは候補に入れるようにしている。
■5位 朝のガスパール
新聞連載されたときの作品。
何が凄いって、あの時代に、ネットを使った文学を行っていた。
1992年発売だから、90年前後ですよ。
その当時に、その朝に小説が公開される。
そのフィードバックが、読者からパソコン通信に送られる。
それを受けて、氏が今後の物語の方向性を決める。
そして、単純にパソコン通信で、情報やり取りをするのではなく
フォーラムをつくり、そこでの流れさえも文学にしてしまっている。
荒らしが当時も出てくるのだが、
それでさえも、登場人物にしてしまうという無謀。
この構想を、現実に行ってしまったという事実は
文学史に残すべきむちゃくちゃのような気がする。
朝日新聞ですよ?
■4位 文学部 唯野教授
象牙の塔と呼ばれている大学の世界の裏側を描いた作品。
同時に、文学の(批評の)歴史も描いており
二重構造になっている。
宮部をよく出したので、さらに出すならば「レベル7」的な二重構造。
ちょうど、このころ氏はハイデガーをしていて、
それで、さらに胃が穴を開いたという話があった。
パプリカで1個、唯野教授で1個の2個である。
命賭けすぎ。
これを読んだら、
構造主義とか記号論の知ったかが出来る虎の巻。
■3位 残像に口紅を
文章の中から言葉が消えていくという小説。
例えば、最初に「パ」という文字が消える。
その世界から、「パン屋」は消えてしまう。
そんな思いつきのような発想を
現実に文章にして、完結してしまったという筆力がすさまじい。
間違って使わないようにキーボードに押しピンをおいて
打ったという噂まで流れたほど(実際はシール)。
博覧強記を裏付ける語彙力。
そして、滅多に描かなかった濡れ場をここでは初疲労。
しかし、使える表現が限られているので、明治文学みたい。
発売当初は、後半を袋とじにして
これを開いてない限り、「現金を返す」という無茶をした作品。
■2位 虚人たち
今までありえなかった小説をつくろう、的なコンセプト。
・現実の世界では絶対に起こりえない事件を同時多発(例:家族が同時に別々で誘拐される)
・読者と、物語の速度が同じ(1ページ5分だったかな?主人公の意識が飛んでいる間は、真っ白なページが続く)
・登場人物たちが、自分は小説の登場人物だと認識している。
・登場人物たちは、個々別々の物語の主人公
・トイレや食事など、本来なら省かれる世界も描かれる
などなど、もうなんいうか、形容すべき言葉を持たない。
いわんや批評をや。
人間の底力というか、鬼気迫る言葉を感じることが出来る。
■1位 虚航船団
中学生のころ読了して「理解できなかった」世界。
高校のころ、やっと読めるようになった。
その頃、友達に貸すと、ギブアップした。
三部構成。
1部は、文房具が主人公。
ホチキスがコココココとしゃべります。
しかも、地の文が省略されすぎ。
小林秀雄を超えた省略。
二部は、イタチたちの世界史。
つまり、人間の世界史をイタチ化している。
三部は、その融合的。
ジョイスの手法をも利用しており、
筒井氏の日常が、個々にも紛れ込んでいる。
もうはちゃめちゃというか、メタ文学というか、SF文学の最高峰というか、
リミッター振り切りすぎ。